短編「いくつもの人生」

 

 

いくつもの人生

 

 

目が覚めたら女の子になっていた。男の子になっていた。黒人になっていた。おじいさんになっていた。ビジネスマンになっていた。アメリカ人になっていた。予備校教師になっていた。夏の甲子園に立っていた。脱税で逮捕されていた。保護観察処分になっていた。杯を交わしていた。モデルの撮影があった。映画の脇役になった。スタイリストになった。風とともに去りそうだった。ひとえに風の中の塵に同じだった。赤ん坊になった。瀕死体になった。NBAに出た。ラッパーになった。巨大な機械を動かした。計画があった。ゴーサインを出した。ボタンは目の前だった。俺は選ぶことができた。緊迫していた。決断を迫られた。俺は決めた。世界は破滅を免れた。みんなは喜んでいた。一日が経った。また朝が来た。俺は中学生だった。母親は弁当を持たせた。今日は挨拶ができた。初めて声をかけた。あついあつい日だった。後ろ姿だった。今日も可愛かった。学校はいつも通りだった。でもなんか嬉しかった。一番特別な日になった。これからもっと特別になっていくはずだ。でもとりあえずいつもどおり進む今日だった。

 

 

 

 

 シュガー・スプーン・シスターズ

 

 

~~激甘!シュガー・スプーン・シスターズ! 今度の敵はお野菜帝国! 新しい仲間はお肉の戦士!? 次回もシャープにクリスピー!~~

____________________

____________________

 

「カロリー神拳!!ハザード・オブ・コレステローール!!」

ギャー
「ふはは。これに懲りたら、野菜生活などというばかなまねはもうやめることだ。」
『待てー!』
「なに? この声は!」
『あたしたちは、スイーツを愛するお菓子の国の魔法少女、シュガー・スプーン・シスターズ! あなたね! 人参とピーマンで埋め尽くして世界を味気なくしようとしてるファイトケミカル男爵っていうのは!』
「待て誤解だ。私は世の中のカロリー不足を補うために生まれた戦士、ファット&プロテインだ!」
『え?! じゃあ、男爵はどこに?』
「それなら多分私が倒したこいつがそうだろう。」
ファイトケミカル男爵が油にまみれてぐったりしている。
『まあ、なんて炒めがいのある状態になっているのかしら。なんにしても、危険は去ったのね! ありがとう! えーっと?』
「ファット&プロテインだ。」
『ミスタ・ファット&プロテイン! ありがとう!』
「礼には及ばないさ! きっと君たちに助けられることもあるだろう! 同じカロリーを愛する仲間同士、カロリーメイツとして今後ともよろしく頼むぞ!」
『こちらこそ! じゃあまたね! ファット&プロテイン!』
「ああ、さらばだ!」

こうして進んだカロリー主義の波は味もへったくれもないお野菜帝国のプロパガンダを破り、こどもたちに愛と平和と虫歯と肥満を取り戻した。
歯科医と菓子産業とフィットネスクラブがシスターズに感謝状を贈った。