映画『リズと青い鳥』鑑賞メモ

近所の駅前のローソンで控えめに貼られたポスターの一枚絵を見たときから見に行きたいと思っていた。その手でいい作品にあたったことが何度かあった。

車内広告でみた『君の名は』と『不滅のあなたへ』がそうだった。

どちらも一枚絵に魅力のある絵柄の作品だからそうなることも納得。

広告を出せるような作品はある程度質が保証されているとも言えるけど、そこは置いておく。

 

ともあれ三か月くらい前に前売りチケットのポスターを見てから忘れていた。昨日思い出して見にいった。

いい映画だった。

でも言語的に整理したいところもあったのでそれをつらつら書いていく。

以下ネタバレがあるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

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個人的にテーマを読み取ってみた。

「友人同士が互いの今の関係よりも、自分自身の自由を生きること、端的に言うと幸せになることを選ぶこと。そして幼く純粋な関係が変わってしまうことへの恐怖、痛み、その先で変わった二人が再会する喜び。が表現されていた」という風に解釈した。

 

目を奪われた告知ポスターのイラストにも居る、二人の女の子がメインになる話。

大雑把にまとめちゃうと、人間関係に苦手意識を持つ「みぞれ」と、対照的に明るく誰とでも友達になれるタイプの「のぞみ」の二人を中心に話は進む。

 

少なくとも前半にかけては、劇中でカメラは主にみぞれの感情の動きを追っていく。

後半、のぞみの気持ちが明らかになる場面ではのぞみや他の部員たちの様子もカメラは追う。

そこではモノローグのような言葉による説明ではなくて、瞬きや視線の動き、手や足の身振りなど、外側から見える微細な感情のシグナルを丁寧にカメラで追うことで、人物の気持ちを表現する。だからセリフの少ないみぞれの気持ちは、映画の冒頭からそれでも饒舌に伝わってくる。みぞれはどうやらのぞみを大好きなのだという様子がそこから伝えられる。

一方で社交的なふるまいが板についているのぞみの気持ちは、言葉数は多くとも真意は見えづらい。あくまで他の友達たちと同じように気さくに明るくみぞれともおしゃべりする。

 

二人は所属する吹奏楽部で、物語の『リズと青い鳥』をもとに作られた曲を、コンクールの課題曲として演奏していく。

そこではオーボエ奏者のみぞれと、フルート奏者ののぞみが、劇中の「リズ」と「青い鳥」を表していて、重要なクライマックスの楽章では両者の別れを表現する。

その物語がそのままみぞれとのぞみの関係の比喩になっている。

大切な存在をそばから手放したくないと思うみぞれは、リズが青い鳥に別れを告げるクライマックスの気持ちを理解できず、うまく演奏することができない。

みぞれが青い鳥であるのぞみと、別れることができるのか、そもそもなぜ別れないといけないのか、「別れ」とはどのようなものなのか。

みぞれがそれを考えていく様子が、映画の追いかける中心的なテーマだったと思う。







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映画の説明はこのくらいにしよう。

せっかくだし自分の心の動きの方を考えてみる。

僕はこの映画が好きだし、応援したいと思った。

しかし、一人の友達を大切に思う気持ちに、シンクロしきれなかった。

照れ臭かったのか、それとも自分がそういう豊かな人間関係の絆を実感したことがないからか。

みぞれの行動の動機になっている「大好きな友達とずっと一緒にいたい、それはいけないことなのか」という気持ちは、友達についてそこまで切実に想ったことがない自分にはわからない面があった。理屈では理解できるし、それを大切に思う自分でありたいとも思うけれど、映画を見ているときの自分は、そのような感情の動きにシンクロすることができなかった。

高い水準で描かれていたからこそ、それがまだわからない自分が、もったいないというか、さびしいというか、そんな気持ちだった。

その空白を埋めるように、映画のテーマや人物の心の動きを推測して言葉にしていった。鑑賞し終わってからちょっとしたメモにも起こした。

そのための手掛かりはたくさん描かれていたのだし、難しいことではない。

しかし、外側から見える身振りからみぞれたちの心の動きを見ても、僕はそれを推理する材料にはできても、自分がその気持ちに同一化することはできなかった。

ただそれでも、モノローグや叫び声だけで描かれる直接的な感情表現よりも、この映画のように小さな身振りの端々を丁寧に切り取って、そのうしろにある感情を伝える手法の方が、仮にその感情に直接的にシンクロできなかったとしても、抑制が効いていて僕は好きだと思った。

要するに、わからないところもあったけど、この表現手法が好き、ということ。

 

作品のテーマについては、解釈的なメモもしてみたけれど、なんだか映画の余韻に対して野暮な気もするので、ストーリーをいちいち追って心の動きやテーマへの回答をわざわざ言語化するのはやめておく。(あとちょっと長くなるのと、まとまりきってないというのもあります。上映期間が終わったころに気が向いたら書くかもしれません)

 

あとは映画を見ればまっすぐ伝わってくるものと思います。

 

願わくば、リズと青い鳥たちの心の動きを、もしシンクロできなくとも落ち着いた眼で追いかけてみてほしいと思います。そこにはさまざまに丹念な表現のシグナルが織り込まれていて、読み取るのは楽しい経験になると思います。(絵とともに、かすかな音まで配置されたアンビエントな手触りの劇伴音楽も聴きどころです)